本書は「プロジェクトマネージャー」と呼ばれている人やこれからプロジェクトマネージャーになろうとしている人を第一の対象として想定していますが、実はプロジェクトマネジメントの知識はこうした専門家だけが必要なわけではありません。
仕事で実施されるプロジェクトは多くの関係者が関わります。例えば、業務システムを導入するプロジェクトでは、意思決定をする組織の経営者やマネージャー、主管となる発注担当者やそのマネージャー、業務で関わる部署の担当者やマネージャー、開発を担当するベンダー(システム開発会社)のプロジェクトマネージャーやソフトウェアエンジニアやテスターやマネージャー、契約や請求に関わる営業担当者や法務担当者、経理担当者、採用担当者など、多くの立場の人々が関わることが通常です。連携するシステムがある場合などはこれが企業単位で増えていきます。少し大きめのプロジェクトでも、100人や200人もの人々が関わることは珍しくありません。これらの多くのポジションの一つでもうまく機能しないと、プロジェクトはスムースに進めることができないのです。
もちろん、小さなスマホアプリを作る場合などは数人から始めることも可能です。その場合は気心の知れた間柄であれば明確な共通認識や方法論がなくてもうまく進めることができますが、アプリがヒットして事業化していけばすぐに関係者は数十人、数百人と増えて、その方法では通用しなくなるでしょう。
プロジェクトを成功させていくには関係者の協力が不可欠ですが、ここで「そもそもプロジェクトとはどういったものか」や「プロジェクトの進め方とはどうあるべきか」が共通認識として存在しているかが極めて重要な意味を持つのです。
関わる人々がプロジェクトとはどういったものかを理解していないと、チームとして効率的にプロジェクトを進めることができません。例えば、システム開発では発注担当者が適切な実行力を持つベンダーを選定できなかったり、予算承認でつまづいたり、要件定義が不十分で完成した時に「コレジャナイ」と言われてしまったり、品質担保ができておらずシステムに障害が発生したり、契約面で揉め事が発生したりするのです。
つまり、プロジェクトについての知識や理解は、プロジェクトマネージャーに限らず、それに関わる人それぞれが持っているに越したことはないのです。また、昨今盛んに行われている新規事業や DX の取り組みように、IT が組織のあり方やビジネス全体に影響することが一般的になる今後は「常識」として必要なものになるでしょう。
そのため、本書はプロジェクトマネジメントの初級者だけでなく、プロジェクトに関わる多くの人が理解できるよう、できるだけ平易な文章とイラストで基本的な考え方やテクニックをお伝えすることを目的としています。